コラム
リビング熊本9月17日号 掲載記事
  • 小林武史
  • 小林武史・蒲島知事
  • 東田トモヒロ
蒲島郁夫×小林武史
熊本・阿蘇復興イベント
蒲島郁夫×小林武史
復興への礎を築く
熊本県民の宝である「世界の阿蘇」が傷つき、
九州全体の観光客が激減している現状
蒲島知事
阿蘇は私にとって、個人的にもとても大きな意味があります。小さいころから阿蘇の原野を眺め、訪れ、将来的にはここで牧場を経営したいと思っていました。その夢があり21歳の時に農業研修生としてアメリカに渡りました。とてもつらい実習生活でした。そのプログラムの中で3カ月間だけネブラスカ大学での学科研修があり、その時はじめて学問の楽しさに目覚め、これが転機となってハーバード大学に進み、日本の大学で教鞭をとったのち、知事となりました。
阿蘇は熊本県民の宝であると同時に、〝世界の阿蘇〟でもあります。世界農業遺産や世界ジオパークにも認定され、阿蘇くじゅう国立公園は、全国32の国立公園の中から世界水準のナショナルパークを目指す8つの先導的モデル実施箇所に選定されています。
今回の地震で阿蘇へのアクセスは不便にはなりましたが、魅力的な風景が楽しめるミルクロードとグリーンロードは通行ができます。しかし風評被害によって、阿蘇を訪れる観光客が激減しているのが現状です。2つのルートに加え冬場の心配を軽減するため、国土交通省では俵山トンネルルートを今年中に開通させるべく工事を進めています。それだけ阿蘇へのアクセスは重要であり、これを確保することが私たちに託された大きな課題です。
蒲島郁夫
APバンクが大切にしてきた「循環」。
その根本が、困った時の助け合いです
小林さん
APバンクは元々、環境問題や自然エネルギーの普及・啓蒙に役立てばとの思いで、それを頑張っている人や活動に融資するという形で活動を始めました。そのターニングポイントが中越沖地震でした。2007年のap bank fesの時に3日間のライブ予定が台風のため2日間中止、唯一開催できたその日に中越沖地震が起こり、巡りあわせを感じました。この時はじめて食材を持ってスタッフと共に炊き出しに駆けつけました。
大量に生産し、消費し、廃棄する、そのやりっぱなしのサイクルではなく、循環していけるものを生かしていくこと、それを学んでいくことが持続性のある未来につながっていきます。そして循環の根本が、困った時の助け合いだと思います。
東日本大震災の時には、できれば大きな経済に依存するだけでなく、中から力が出てくるような復興の在り方・方法はなんだろうと考え、東北に寄り添うことを2012年から行ってきました。
そして今年、石巻で「リボーン・アートフェスティバル」を準備している最中に熊本の震災が起こったんです。ビックリしたしスタッフも混乱しましたが、「とにかく行ってみないとわからない」と、福岡の知人の協力を得て、炊き出しの道具を持って震災直後に益城町に向かい、その後は南区にベース基地を設けて支援を続けていきました。
最初に南阿蘇を見た時は、どう回復していくのか見えづらい、本当にそれほど深刻な被害だと痛感しました。また、阿蘇の外輪山から溜まった雨水が熊本の海のほうへ流れるライン。生活を便利にしてくれるこのラインが、実は活断層と重なっていることにも気づきました。いいことも悪いことも背中合わせというか…。もろいんだけれどすごく重要な場所、人間でいうと〝首〟のようなイメージ。阿蘇はそんな特別な場所に感じます。
小林武史
参加することがとても大事。気負わなくていいから
音楽を聞きに阿蘇を訪れるそれも支援の形です
蒲島知事
蒲島知事 お金のこと・経済だけで復旧・復興を進めるべきではないと思います。プライドや安全・安心、夢に貢献すること、それが人々の「幸福量」の最大化につながると確信し、熊本県の創造的復興に取り組んでいます。
そしてもう一つ大事なのが「参加すること」。小林さんがすぐに熊本に来て炊き出しをされたように、何かやらなきゃいけないといった、参加の心がとても貴重ですし、感銘を受けました。今回のアスペクタでの音楽イベントに何千という人が阿蘇を訪れ、宿泊し、楽しんでもらえる。別に気負わなくていいから参加することで私たちを元気にしてほしい、そういう支援の形もあると思います。東京など大都市では熊本地震の記憶の風化が懸念される今、日本中の人が来て参加し、元気づけてくれる。自然への畏れと自然への愛着が両方でてくるような機会を与えて下さったことに、大変感謝しています。
蒲島郁夫×小林武史
蒲島知事が掲げる「県民総幸福量の最大化」。それを支えるものとして、「経済的豊かさ」「プライド」「安全・安心」「夢」があり、これは震災後の復旧・復興にも欠かせない要素であると小林さんに語りかける知事
小林さん
熊本の人にとっての誇りである阿蘇。熊本に縁が薄かった人でも、阿蘇の雄大さを感じ、人の手によって守られ受け継がれている、そのことに気づいてもらえる。音楽もそうですが、参加することで阿蘇を感じてもらうこと、阿蘇の復興や元気になるスピードを早めるお手伝いをしていきたいですね。